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荻さんのことを思う

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荻さんのお墓参りに行ってきた。
彼女は元職場の先輩、2年前に胃がんで亡くなった。

自分はお見舞いもお葬式も行ってないから、私の中で荻さんの姿は元気なままで、今もどこかで生きているのではないかと願ってしまう。

彼女と私は歳も近く、小さな事務所では私のお姉さん的存在で、同じ独親女性として話もよく合った。だから、そんな彼女が癌に侵され死んでしまった事が現実として受けとめられず、ずっと目をそむけていた。お見舞いに行かなかったのも、闘病中の彼女の姿を直視する自信がなかったからだ。

彼女が亡くなって2年。自分も彼女と同じ歳になった。
そしてなんの因果か、私にも腫瘍が見つかった。
「ガンかもしれない。腫瘍を摘出しましょう。」
医者にそう言われ、そこから検査検査の日々。
病院のベットで横になりながら、荻さんはどんな気持ちで闘病生活を送ったのだろうと考える。

死は、やはり恐ろしかったのだろうか。
入院中は、やはり孤独だったのだろうか。
抗がん剤は、どれだけ彼女を苦しめたのだろうか。

みんなに会いたい。でも、自分のボロボロな姿は見られたくない。
みんなと話したい。でも、心配や迷惑はかけたくない。
身体がしんどい。病棟から出る体力もなく、窓の外を行き交う人々を眺めながら、外出着を身にまとい仕事でいそいそと歩く姿が眩しくて仕方がない。つい先日まで、私もそっちの世界にいたのに。

結婚もせず、仕事もやめて、養わなければいけない家族も、責任もない。
何のために生きなければいけないのか。
楽しみにしていたことも、まぁあきらめなければならないだろう。
そもそも、自分にそこまでしてやりたい事なんてあったっけ。

荻さんは、生きていたら何がしたかったですか?
荻さんは、病気になって何をあきらめましたか?

腫瘍の摘出手術をし、病理検査の結果がでるまで約2ヶ月。
抗がん剤治療が始まれば、またボロボロになる。
元気な間に、動ける間に、会いたい人にあって、お世話になった人に挨拶しておこう。次、こうして笑って話せる日がくるのは、いったい何年後になるのだろうか。もしかしたら、これが最後になるのかな、なんて事を考えながら。

だけど、腫瘍は良性だった。自分はガンではなかった。

退院してから、親友が妊娠した。
退院してから、親友が入籍した。
退院してから、親友が大好きな海に連れてってくれた。

自分で叶えることができなくても、まわりが夢を叶えてくれる。
この先も何かいい事があるかもしれない、そう思えること、それが「希望」というものか。

いま、普通に食べられる事が嬉しい。
いま、普通に動ける事が嬉しい。
いま、普通に笑って大好きな人達に会える事が嬉しい。

生きる歓びって、幸せって、そーゆー日常的な普通のことなんですね。
家族が、親友が、私を想ってくれる周りの人達が、私を生かしてくれている。

そんな矢先、10年前の自分から手紙が届いた。
「10年後なんて一体どうなっているのでしょう。想像もつかないけど案外今とたいしてかわりないかも。」
病気になったり、震災があったり、死んでいるかもしれないなんて、あなたは想像もしないでしょう。10年後も当たり前に元気で幸せな未来があると思っている自分に笑って泣けてきた。

そう、だけど結局は、あの頃とたいしてかわってない。
結婚して離婚した親友は、いまも飲み会でモテまくっているし、
海外や地方に転勤した仲間も、東京にもどってきたし、
肝っ玉姉さんだった親友は、肝っ玉母さんになっているし、
鬱病で音信不通になった親友は、仕事に復帰して元気にやっているし、
休日も大学に残留していた親友は、いまは職場で残業している。
そして病気になった自分は、いまものほほんと暮らしている。

10年間色々あったけど、あの頃とたいして変わらず、いまも家族や仲間が元気に笑って一緒に過ごしている。
それがどれだけ幸せなことか。

「相変わらずフラフラののほほん生活を送ってますが、10年後も小さな幸せと心の平穏を忘れないで楽しく生活していることを望みます。10年後の私は、今日の1日のことなんて忘れてしまうかもしれないけど、今日も私は幸せです。」

そうだね、今日も私は幸せだよ。

荻さん、私はまだまだ生きていてもいいですか?
お墓参りが遅くなってごめんなさい。

やっと彼女の死と向き合う事ができそうです。

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